料理が大変おいしかったというだけでなく、食事空間も含めてこれだけ身も心もリラックスしたやわらかな気分を味わえたのは、初めてかもしれません。
東急東横線の祐天寺駅から10分ほど歩いた閑静な住宅地の中に、「菜懐石 仙(なかいせき せん)」はあります。とても手のかかった、創作精進料理のお店です。
京都の建築家に依頼されたという部屋は、外界の喧騒から完全に遮断され、時間の流れが緩やかな「ここだけの空間」でした。
部屋は3つあり、それぞれにテーマがあって異なるそうなのですが、私たちがお邪魔した部屋は、窓はなく、韓国の手すき和紙を壁に張った部屋。遠く鳴る鐘の音やヒグラシの鳴く声を中心としたヒーリング・ミュージックが、小さな音でかかっていました。
取材に同行したKさんは、「夏休みにお寺に篭って瞑想しているような感じ」と言葉にしていましたが、このまま横になればぐっすりと眠れるような、そんな気持ちの良い部屋でした。
私達がいただいたお昼のコースは、前菜、焼き物、お造り、揚げ物など。肉や魚、卵、砂糖、化学調味料を一切使っていない、とても手のかかった精進料理です。料理のひとつひとつを紹介するには言葉が足りないくらいなのですが、取材に行ったふたりとも、前菜でいただいた「いちじくのシャーベットの味噌ダレがけ」から最後まで、感服しきりでした。天ぷらも、あわび茸、かぼちゃの花、柿木茸と菊芋のかき揚げ、というように、初めて口にする食材も多かったです。
お店を切り盛りされているのは、『菜菜ごはん』などの著作もある野菜料理研究家のカノウユミコさんと妹のヒロエさんのお二人。「私が行きたい究極のレストランを作っただけ。趣味ですよ、趣味」とカノウユミコさんは笑います。その日の食材から作るけれども、何ができあがるかわからないし、作っているうちに予定と違うものができてしまうとのこと。
「例えば、画家の人は同じ絵を何回も描かないですよね。同じ器の絵を描くにしても、毎回違うと思いません? 昨日の自分と今日の自分は違うし、野菜も昨日と今日では違う。調味料も毎日刻々と変化している。だから、そのときある食材のそのときの状態に合わせて作っています」とカノウユミコさん。一度作ったものは二度と作らないとか。まるで芸術家のようです。「私が楽しくないと、食べてる人も楽しくない。好きなときに好きな人に食べさせたい」と笑うのが印象的でした。
カノウユミコさんは、瞑想などのスピリチュアルなものに小さな頃から興味があり、自分への修行として精進料理やベジタリアン料理を始めたそうです。1995年から4年間続けた精進料理のお惣菜を入れたパン屋さんでは、多くのファンを作ったとか。その後ネパールに渡り、パーマカルチャー(人間と環境が共存してその中で自給できる永続的なシステム作ろうとする動き)の理念に基づいたエコロジーホテルの設立に従事されていたそう。
カノウユミコさんはとてもスピリチュアリティに富んだ方でした。
(取材・文:市嶋泰樹)














