
― 「大原に何があるんですか?」
― 「何があるって、…雰囲気自体がいいよ」
こんな会話がきっかけで、以前友人に勧められたこの場所を、今回初めて訪れてみました。
京都駅から大原行きのバスに乗ると、1時間ほどで終点の大原に着きます。途中、比叡山へのケーブルが発着する八瀬駅前辺りからは山々が間近に迫り、終点が近づくにつれて周りにはのどかな里山の風景が広がってきます。
終点である大原バス停からは10分ほど、茶処やしば漬け、お団子の店などが点々と連なる参道をのんびり歩くうちに、“三千院門跡”とある古い大きな門の前に着きました。
境内はかなりの広さがあるようです。初めに通された客殿の中を行くうちに、“照干一隅”という言葉に出会いました。さらに進むと自由に写経が出来る場所もあります。荷物を置いて正座し、穏やかな寺の空気を感じながら筆を動かすうちに、いつのまにか自分が無心になっていたような気がします。
庭に出ると、平安時代に建てられたという“往生極楽院”がありました。正面に廻ると、ほの暗い中に鈍く光る像が外からも見えて、その厳かな存在感にはまるで圧倒されるような感覚を覚えます。中央には半眼で静かに坐す大きな阿弥陀如来像、両隣にはひざまずき迎え入れるような姿勢で何とも優しい目をした2体の菩薩像。しばらく前に坐り、こころゆくまでこの静かな充満した空気の中にとどまらせてもらいました。
庭に降り立つと、木々の下には青々と苔の絨毯が広がっていて、
その一隅のやわらかな日差しの中に、仲良く寄りそうお地蔵や、
ほっこりと優しく微笑む数体のわらべ地蔵が日向ぼっこをしている
のも見えます。あるものは苔むしていたりしながらも楽しそうに居る
姿に、さきほど接した“照干一隅”という言葉をふと思い出しました。さらに庭を散策しながら進むとまた別のお堂があって、すっと静かに立つ聖観音のお姿にも出会えました。
広い庭園は紫陽花や紅葉、雪景色など、季節ごとに様々な見頃を楽しめる名所でもあるとのことで、その四季折々の表情をまたいつか訪ねてみたくなるような空間でした。出来たらたびたび訪れ、ゆったり境内を巡って、ここでの穏やかな時間をまた味わいたいものです。
三千院を後にして、暖かい春先の光の中、梅やミツマタ、マンサクなどの花の姿を愛(め)でながらのんびり行くと、どこからともなく花の香りが漂ってきて立ち止まり、近くの寺からは朗々とした声明が流れてきてまた立ち止まり……。午前中のほんのしばらくの間でしたが、ゆったりといい時間を楽しめました。辺り一帯には他にも歴史ある寺院がいくつも点在しているので、ここを訪れた折にはぜひゆっくり時間をかけて、大原散策をされてはいかがでしょうか。
わらべ地蔵・杉村孝
(取材・文 テジマアキ)














