SQな場所 - 塔ノ岳(神奈川県秦野市)

塔ノ岳(神奈川県秦野市)

塔の岳ゴールデンウィーク明けの平日の早朝、小田急線の渋沢駅。ここは丹沢表尾根の玄関口として知られており、北口のバスターミナルに発着する「大倉行き」バスには、次々とザックを担いだ人々が乗り込んできます。6時台でも20人近くが乗車してきました。表丹沢は東京方面からのアクセスも便利なために訪れる人々も多く、休日ともなればさらに多くの人が押し寄せます。

渋沢駅を発車したバスは、表丹沢の山並みの方向へ向かいます。ほどなく到着した終点の大倉バス停の辺りは開けていて、近くを流れる水無川の周囲が整備された公園になっており、すぐ近くにはビジターセンターなどの施設もあります。

登山口へ向かう道筋では、ちょうど淡い紫のフジの花が咲いていました。イカルやウグイス、ヒバリなどの声を聞きながら畑の脇の道を進みます。登り口辺りで林のすそに落ちていた手頃な木の枝を見つけて杖代わりにして、いざ登り始めます。

塔の岳登山道は植林地帯の中を伸びています。しばらく歩くうちに木で作られた長い階段が出現し、急な坂が続くようになってきます。通称馬鹿尾根ともいわれるこの大倉尾根は、ひたすら登りが続くといってもいいくらいです。登りは1歩ずつ1歩ずつ。自分のペースを見つけてそれを大事にしなければなりません。度を越えて先を急ぎすぎたり、あまり無理なペースで最初に飛ばしすぎたりしても、後でバテてしまいます。特に前半の展望の少ない林の中をひたすら登るうちは、いったいいつまで歩けばいいのだろうという気になってきますが、この山のありがたいところは、たとえ休みながらでも地道に1歩1歩足を踏み出し続ければ、数時間後にはまず確実に頂上に至ることができるというところです。頂上までは途中幾つかの山小屋や休憩地もあり、時おりベンチなどで調子を整えながら少しずつ登っていくことができます。大倉の登り口から、普通の速さなら3時間半前後で塔ノ岳山頂に着くことが出来るでしょう。高山へ挑む前のトレーニングを兼ねて訪れる人も少なくないようです。

塔の岳ひたすら歩くうちに、じわじわと身体の深部の方に溜まっていた汗が出てくるような気がします。この段を登り切ったら一息入れよう、あの林の切れ目に出たら少し休もう、あと5分歩いたら立ち止まろう、などと自分の中でラインを作ってしばらく少し頑張りながら歩を進めます。途中の足元にはひっそりとスミレが咲いていて目を喜ばせてくれました。ところどころ木々の間を縫って光がさしこみ、地面に眩しい光と陰のコントラストを描いています。「いちめんのいちめんの諂曲(てんごく)模様」という”春と修羅”の1節を思い浮かべつつ歩き続けました。


mt.fuji.jpgしばらく登り続けるうちに、ようやく植林地帯を抜け、展望が開けてきました。左には富士山と箱根方面の山々、右には丹沢表尾根の山並みが伸び、後方には今まで登ってきた長い尾根の道と秦野の街並みが見下ろせます。風がそよそよと渡ってきて頬を撫でていきます。透き通った風、まるで生き返るような感覚です。この風に会いたかったんだ!と、そよぐ風に迎えられて心が喜び、ありがとう、と小さい声で私は吹く風に呼びかけました。

登山道脇には清楚な淡い色の桜がまだ残っていて、地面の上にちらちらと白い模様をつくっています。樹の陰からはカケスが鮮やかな羽の空色を見せて谷の方へ滑空していきました。ツツドリやアオバトのどこか奇妙な声が向こうの山合から響いてきます。“金冷ヤシ”と呼ばれる地点を越えると、目指す塔ノ岳まではあと僅かです。頂上近くのこの辺りは新緑の季節にはまだ少し早く、その代わりにちょうど芽吹いたばかりの黄金の新芽に出会えました。枝先の新芽は光沢の輝きを放っています。駅の辺りから景色の背景として見えていた表尾根の稜線上を、今自分自身が歩いているのです。

塔の岳やっと辿り着いた頂上は1,491m、南側は眼下に秦野盆地を一望でき、北側を向けば、見渡す限り幾重にも見事に山並みが連なっています。この奥にはさらにさらに、まだ訪れたこともないたくさんの場所があるのです。(前々日の雨で空気が洗われたのを期待していましたが、この日の展望はかなり霞みがかったものでした。空気が澄んだ日は遥か八ヶ岳や南アルプスの方まで見えるということです。) 頂上には展望盤も設置されていて、今眺めている景色を見較べて確認することもできます。

山頂ではたくさんの人が寛ぎ、眺めを楽しんだり腹ごしらえをしたりしています。携帯用のガスでお湯を沸かし、山上でのティータイムを楽しんでいる人もいます。私も靴を脱いで素足になり、風に晒して疲れた足を解放しました。ベンチの上で仰向けになると、視界は何物にも妨げられず、上に見えるのは一面に広がる青い空と太陽だけです。今回登ったこの日、下界はかなり暑くなったのですが、頂上はあくまでも穏やかで爽やかな日和でした。1時間ほども私は山頂での穏やかな時間を楽しみました。

塔の岳休憩を楽しんだ後は、三ノ塔やヤビツ峠などへの表尾根方面、丹沢山や蛭ヶ岳などへの主脈縦走(JR橋本方面へ出ることが出来る)、西丹沢方面、往路を戻る人と行く道は様々に分かれます。もし日程や懐に余裕があれば、山頂の山小屋に泊まるのもよいものです。時間の余裕があるので、日暮れや夜、明け方、陽の出入りといった刻々に移り変わる周囲の自然の様々な姿を、じっくりと味わうことができます。以前山頂に泊まった時は、夕方遅くに周辺の一帯を深い霧がすっぽりと包み込み、その深い霧の層の遥か下の方から、鳥達の声がまるで湧きあがってくるように聞こえていたのが印象的でした。

今回の帰り道では鹿にも出会いました。歩く傍らでは様々な鳥達が競うようにあちらこちらでさえずっています。山頂近くのブナの新緑に会いたかったのですが、今回はまだ少し早かったようです。山頂近くも今頃は、日ごとに濃くなる緑で覆われつつある頃でしょう。

(取材・文 テジマアキ)

塔ノ岳(神奈川県秦野市)

アクセス:神奈川県秦野市 小田急小田原線渋沢駅(新宿から急行で約1.20時間)北口→(神奈中バス「大倉行き」約10分)→大倉バス停→(約3時間半前後)→塔が岳→(約2.15時間前後)→大倉バス停 

注意:一般向けとはいえ登山コースです。丈夫な靴の着用、上着や雨具・地図・軽食・水分などは必携です。早めの出発と早めの到着、天候急変時の対応なども計画に含める、体力に見合ったコースの選択、行き先や時間の予定を家族などに伝えて出かけるなどして、無理はせず安全な登山を楽しみましょう。

山頂宿泊に関しての情報:尊仏山荘ホームページ(展望図も紹介されています)

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秦野 市情報館2008年03月30日 06:29

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