3月初めのちょうど東京も寒さが戻った頃に、再び塔ノ岳を訪れた。
山の上の方が白くなっているのは下からも見えていたが、実際にその風景のただなかに入っていくと、こんな世界が広がっていたのだった。



風は山をざわざわと鳴らして吹いていた。頂上に向かう尾根に出ると、樹々に吹き付けた雨や雪が凍りつき、それらが冷たい風にあおられて、からからと乾いた音を立てていた。


山頂(1,491m)は吹きさらしの風があまりに冷たすぎて、涙が出るほどだった。富士山にかかる雲も、まるで凍てついたようにほとんど動きもせず、ずっと同じ姿のままだった。食べ物を求めてか、山頂には厚い毛並みの鹿も姿を見せていた。



空気が澄んだ時期であれば、ここからは展望図を見比べながら、日本アルプスまでも遠望できる。
下に降りれば市街地も近いのだが、奥の方に幾重にも連なっている山並みを見渡すと、とても遠くまで来たような気持ちになる。


首都圏でも少し足を伸ばすと、こんな風景に出会えるとは、何と恵まれているのだろう。千数百m高度を上げただけで、下界とは全く別な世界が広がっているのだ。
ふもとの街では、夜も春祭りの太鼓の音が遠く響いていた。
(取材・文:テジマアキ)














